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食限定の取材歴20年、フードライターの浅野陽子です。
8月23日(金)から公開の『至福のレストラン 三つ星トロワグロ』の先行試写会に呼んでいただき、ひと足先に観て来ました。
今日はその映画評です。
映画を観ながら三つ星レストランで食べている(ような気分になる)
「トロワグロ」は1930年にフランス中部で創業した老舗のフレンチレストラン。場所や形態を変えながら家族経営が続き、55年間ミシュランの三つ星を獲り続けているすごい店です(現在は4代目)。
バブル期には東京にも出店。フランス本国では料理人の修業先となって日本人を迎え入れ(重鎮・三国清三シェフなど100人以上がトロワグロ出身)、日本のフレンチの発展やグルメブームを語るのに欠かせない存在なのです。
そしてこの映画は「トロワグロのすべてを一本にまとめたような作品」でした。
以下、パンフレットから抜粋です。
世界の美食家たちが夢見るくトロワグロ>訪れた者すべてを虜にする秘密とは?
映画では、レストランを主な舞台に、オーナーシェフ3代目のミッシェルと4代目のセザール、さらにスタッフたちの終わりのない食への追求の日々を捉える。
マルシェでの日々の仕入れ、開店前の予約客のアレルギーとメニューの確認、ステージのように広々とした厨房で、司令塔の指示のもと多様な無籍の料理人たちが丹念に調理する過程、ホール担当の洗練されたサーブと心躍る料理のプレゼンテーション、博識と感性に基づいたソムリエのワインへのコメント、テーブルに立ち寄り客を会話でも楽しませるシェフーーこれらレストランの1日が、朝から夜へと縦の軸として描かれていく。
一方、点描のようにアクセントとなるのが、新しいメニュー開発への飽くなき挑戦だ。かつてない組み合わせや味つけが閃(ひらめ)く瞬間、繰り返される試作と試食、忌憚なきディスカッションという創造の時間だ。観る者は、天性の才能と途方もない努力から、芸術作品が誕生するエキサイティングなプロセスに立ち会うことになる。
料理版リアリティーショー的に楽しめる?
このパンフレットの通りで、日々の食材の仕入れから、厨房スタッフの仕込み、メニューの試作、毎日の営業風景、客席の会話まで、全部のシーンがくまなく撮られ、盛り込まれています。
厨房でも、畑でも、営業中の客席でも、ずーっとカメラを一点に固定してシェフとスタッフや、客同士の会話を取り続けているシーンがほとんど。
「ぶっちゃけ、それって面白いの?」と突っ込みたくなるかもしれませんが……面白いのです!
逆に、「次のメニューはここを改善した方がいい」「いや、そうするとコストの問題もある」みたいな厨房での日常会話をただただつなげてるのに、見続けられる作品にしてしまうのが、プロの編集の妙なんですね。
この不思議な感じ、どこかで観たことあるな……あ、「テラスハウス」や「あいのり」のような、リアリティーショーだ!と思いました。
「普通の日常」を4時間見続けられる世界
ところで、この映画の最大のポイントであり、難所は「時間」です。240分(全4時間)という超大作なのです。
アクションやミステリーのような、ドキドキして「これから一体どうなるの?」という展開は一切ありません。前述のように、ただただ仕入れや厨房スタッフ同士の会話などを目の前で聞くだけ。
食に興味があっても、「ファインダイニング」と呼ばれる1食数万円のレストランには興味がない、という人にはつらいかもしれません。
一方で食べ歩きが好きな人にはずーっと目がクギ付けです。
メニュー開発も「なるほどー、こうやってシェフとスタッフで試食したり試行錯誤して毎シーズンのメニューが生まれるのか」と興味シンシンで見てしまいます。スタッフの、気が遠くなるような細かい仕込みのシーンなんかもよかった。
映画やドラマで、そういう場面もありますが、全部デフォルメされ、しかもごく一部分しか紹介されないので、こうしてフルフルで「レストランの裏側」を目の当たりにできるのは、かなり興味深い。逆にここまで全部ドキュメンタリーでさらけ出したのは初なのではないでしょうか。
取材を許したトロワグロファミリーも素晴らしいし、御年94歳(1930年生まれ)でこの長編を撮り切った巨匠、アメリカ人のフレデリック・ワイズマン監督にも大いなる敬意を表したいです。
食が好きな人には楽しめる作品だと思います。映画館でぜひ観てみてください。
それでは、今日も最高においしい1日を!
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