食の取材歴20年 フードライター浅野陽子の東京美食手帖

フードライター、食限定の取材歴20年。フードサステナブルが得意。執筆実績『dancyu』『おとなの週末』『日経MJ』『AERA』『NIKKEI STYLE』『TimeOutTOKYO』/書籍『おいしい無印良品』/TV出演『バイキング』『TVチャンピオン』ほか/東京都出身、青山学院大学国際政治経済学部卒、ダイヤモンド社を経て独立。ご連絡は asano.yoko[あっと]icloud.comへ

[試写評]豊かな日本人が知らないシーフード産業の闇を描く映画『ゴースト・フリート』を観てきました

映画ゴースト・フリートの画像

(c)asanoyoko.com

日本人が食べる魚は、ゴースト・フリート(幽霊船)で獲られたもの?

こんにちは、フードライターの浅野陽子です。

今年5月28日(土)から全国公開予定の映画『ゴースト・フリート〜知られざるシーフード産業の闇』のメディア試写を観てきました。

映画ゴースト・フリートの画像

映画のシーンより(以下同)©Vulcan Productions, Inc. and Seahorse Productions, LLC.

あなたの買っているシーフードやペットフードは「海の奴隷」が捕ったものかもしれない。

現代にも奴隷が存在しており、世界有数の水産大国であるタイには、人身売買業者に騙されるなどして漁船で奴隷労働者として働かされている「海の奴隷」が数万人存在するといわれている。

日本は決して無関係ではない。(公式サイトより)

会社員時代から現在のフードライターとなって、食の取材をして20年あまり。

2016年には英国発の国際NPO法人MSCジャパン公式ブログを書くオフィシャルライターとなりました。

サステナブル・シーフードの取材で全国の漁港、市場も回りました。

が、人間いくつになっても、まだまだ知らないことはたくさんあるものです。

映画ゴースト・フリートの画像

 ©Vulcan Productions, Inc. and Seahorse Productions, LLC.

スーパーの魚売り場を見ると、「マルタ産まぐろ」とか「ノルウェー産さば」「インドネシア産えび」など日本だけでなく世界各国の海からさまざまなシーフードが届けられているのがわかります。

そうした「鮮魚」だけでなく、缶詰のツナ缶や、ペットフード(特にキャットフード)にも、膨大な量のシーフードが世界のどこかで獲られ、加工されて日本にやってきています。

缶詰も裏の表示を見ると「タイ産」など、原料は東南アジアの海で獲られていることが多い。

映画ゴースト・フリートの画像

©Vulcan Productions, Inc. and Seahorse Productions, LLC.

それを獲っているのは「海の奴隷(ゴースト)」と呼ばれる、監禁され、自身が望まない不当な労働をさせられている人たちかもしれない。

この作品では、それを細かく描いています。

東南アジアの貧困国の男性たちを「いい仕事がある」とだましたり、街中で拉致して漁船に乗せ、何年も下船させずにこうした奴隷労働をさせている現実があります。

そこで獲られた魚は、世界中の「豊かな国」に運ばれます。

利益を得ているのは彼らを囲っている不当な漁業者だけ。

男性たちには正当な賃金はもちろん払われません。

その魚は日本にも運ばれて、スーパーで安く買える商品となり、食卓の一部になっています。

そんな事実も知らずに食べている私たち。

帰りたくても帰れない、海の奴隷を救い出す

映画ゴースト・フリートの画像

©Vulcan Productions, Inc. and Seahorse Productions, LLC.

私たちが「普通にシーフードを食べている」裏側で、世界の海では現代の2010年以降もそんな奴隷労働が起きていること。

この信じられない現実を正しく伝え、「彼らを見つけて、強制労働を終わらせ、救い出そう」とするタイ人の女性社会活動家、パティマ・タンプチャヤクルさん(上の画像、2017年にノーベル平和賞ノミネート)の奮闘を描いたのがこの映画です。

映画ゴースト・フリートの画像

©Vulcan Productions, Inc. and Seahorse Productions, LLC.

この映画を観ると「ネットやSNS、デジタルツールが普及している現代で、本当にこんなことが起きているの?」と絶句します。

でも北朝鮮拉致問題が解決されず、今でも帰国できない日本人の拉致被害者がいるように、彼らも帰国手段がありません。

拉致され、そのままい続けるしかない現実がさまざまな形で、各シーンで出てきます。

映画ゴースト・フリートの画像

©Vulcan Productions, Inc. and Seahorse Productions, LLC.

不当労働を強いられ帰ることができない、賃金をもらえないだけでなく、船上で暴力を受けたり、ひどい場合は殺害されたりする人もいる。

これらは違法なIUU(Illegal Unreported and Unregulated)漁業と言われ、国際的に禁じられています。

前述の通り、私は2016年からMSCジャパンの仕事でサステナブル・シーフードの取材を続け、国際認証の「MSC 海のエコラベル」の重要性を訴えていました。

MSCは漁業者にサステナブル・シーフードの認証を与える際、「魚のとりすぎ防止」だけでなく「漁業と地球環境の保護の両立」「IUUの禁止含め働く人の人権保護」が行われているかも、総合的に、長期間チェックします。

今回この作品を観て、あらためてMSCの存在意義を再認識しました。

豊かで人権が守られることも当たり前な日本にいると、つい「サステナブル・シーフード=魚をとりすぎず未来に残す」という一面でしか、この課題をとらえられないですが、魚・環境・そこで働く人、すべてがサステナブル(持続可能)でないといけないのだとわかりました。

メディア(情報の媒介者)としての自分の存在意義

映画ゴースト・フリートの試写会の画像

(c)asanoyoko.com

この作品を観て、もう一つ強く思ったことがありました。

それは「メディア=情報媒介者」としての自分の存在意義です。

フードライター、フードジャーナリストを仕事にしている、というと周りからは「すごいね」「カッコいいね」などと称賛されますが、メディアというのは(食に限らずですが)、実業がないのです。

「食のプロ」とは言っても、レストランの経営や、身銭を切って商売をしたことはない。

自分が作った料理や飲み物を販売したこともない。

それらに携わっている業界の人たちを“レポートするだけ”の立場です。

あるところ虚業では?と虚しく思うときもあったのですが……

私の役目は「こういう現実があるということを、自分の筆力や伝える力で、それを知らない人に伝え、小さくてもアクションを起こす」ということが仕事であり、使命なのだと。

メディアの世界では「『知らない』のは『存在しない』のと同じこと」とよく言います。

この知らないを「知る」に変えることは、私やメディアの立場にいる人しかできないのではないかと。

映画ゴースト・フリートの画像

(c)asanoyoko.com

ということで、今回はこの映画『ゴースト・フリート』に関する紹介でした。

今回は報道関係者向けの先行試写会でしたが、2022年5月28日(土)から、渋谷のシアター・イメージフォーラムをはじめ、全国で順次公開されます。

配給は話題のドキュメンタリー作品を次々の日本で紹介している福岡の映画配給会社ユナイテッドピープルさん。

ぜひあらゆる方に観に行っていただき、ご自身の意見や考えを発信していただきたいです。

学校の先生は、授業で生徒さんに観せていただきたいですし、行政でも各自治体で区民や市民を集めて上映会を開いていただきたいです。

今日も(関わっているすべての方々に深く感謝しつつ)最高においしい1日を!

unitedpeople.jp

 

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