食限定の取材歴20年、フードライターの浅野陽子です。
今日は食の本の書評です。
『調理場という戦場』(斉須政雄・著)を読みました。
文庫本も出ています。
日本のフランス料理界の重鎮で、東京・三田にあるフレンチの名店「コート・ドール」のオーナーシェフ、斉須政雄さんの本。
1950年生まれの斉須シェフが2002年、52歳の時に自身の料理人人生を振りかえって、仕事論や料理、後に続く若いシェフたちへの思いなどをまとめた本です。
とにかく深い。
「料理人とグルメだけが読むのはもったいない本です。(中略)どんな年齢の、どんな職業の人が読んでも身体の奥底から勇気が湧きおこってくるでしょう。
と、糸井重里さんが本書の帯でコメントを寄せられており、本当にその通り。
新聞をはじめいろんなメディアでも取り上げられてきた話題の本で、私が手にとったものでもすでに重版10刷目です。
飲食業界と、それ以外の業界でもすべての働く人に向けた金言が満載
本書の構成は、「フランスでの修業時代(全5店)から帰国」、そして「東京での「コート・ドール」開業から現在まで」を時系列で追ったもので、シンプルです。
それぞれの時代に起きたことを振り返り、斉須シェフが感じた思いをつづっています。
どれも金言で。
読みながらふせんを貼りまくってしまいましたが、特に心に残った部分を抜粋します(そのままではなく、要約です)。
- 子どもが子どもらしく過ごす時間を必要とするように、料理人にも「見習い」の期間は必要。調理場の中で見習いは最も周囲を見渡すことができる立場。
- 「最高の料理人」は普段は妙なオーラやすごさは出さない。無色透明で地味に見える。しかしステージに上げられたとき、いちばん大切な時にこそ最高の能力を発揮させる。そんな「ばね」を持ち合わせている。
- 野菜には、まだ出会っていないけれど、組み合わせると劇的にお互いのよさが引き立つ「兄弟」が必ずいる。また、平凡な組み合わせでも加熱や調理のタイミングを変えたり、何かを振りかけたりすることで新鮮で新しい価値が生まれることがある。
- その発見を日々目指している。多くはすぐには実を結ばないアイデアばかりだが、それらの点があとで必ず線でつながる。今まで一つもむだになっていない。だからこそ、毎日試していないといけない。
- お客さんには家庭的ないい料理を出し続け、調理場では絶えず新しい料理の開発をしていく。その両方をやる必要がある。
いかがでしょうか?
本当はもっと紹介したいところもありますが、あまり多く抜粋すると「引用」の範疇を超えてしまうのでここまでにします。
どのメッセージも、レストランに限らず、どの職場や仕事人に通じる金言ではないでしょうか。
「仕事をする(=プロでいる)」。
そして「一流の結果を出す」のは、飲食業界でも、どの業界でも大変です。そのためにどんな努力をし続ければよいのか。
感度の高い斉須シェフのフィルターを通して見つけたメソッドが、本書の各所に散りばめられているように思いました。
上と下、それぞれの世代に挟まれてにっちもさっちも行かず、悩んでいる中間管理職世代の方に特におすすめです。
ただ斉須シェフ、1点だけフードライターとしてお伝えしたいことが!
ぼくはおいしいものができるのなら、どのくらいの時間であっても構わないのです。
「テリーヌは、何度で何分でしょう?」
そういう小賢しい基礎知識を振りまわす人を見ると、ちょっとムッとしてしまいます。そんなことないよ、試してみなければわからないじゃないか。結果がよければそれが最高のテリーヌの作り方なんだ。
(最終章「東京 コート・ドール」P.219)
ここを読んで冷や汗が……。
「料理人へのレシピ取材」という仕事のとき、私、シェフや料理研究家にこの質問をよく投げかけてしまいます。
でもそれ、レシピ記事を読む読者にどうしても必要な情報なのです。
取材させていただく機会が今後ありましたら、「感覚ではどうやってもうまく作れない」、と悩み困っている人が使う「指針」として、取材時だけ伺うことをお許しください……(^^;
それでは、今日も最高においしい1日を!
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