フードライター浅野陽子の美食手帖

食の取材歴20年のフードライター(子育て中)がレシピ、レストラン、仕事話などを紹介するブログです。著書『フードライターになろう!』全国書店で発売中。

【読書評】現役フードライターが浜田岳文さん新刊『美食の教養』を読んで感じたこと

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食限定の取材歴20年、フードライターの浅野陽子です。飲食業界で話題の新刊

美食の教養――世界一の美食家が知っていること』(ダイヤモンド社刊)、食に興味がある方はお読みになったでしょうか?

6月25日発売、400ページ近い大作です。飲食業界関係者ではまだ読書評をネットに上げている方はいないようで、ゆるいテンションながら、フードライターとして感じたレビューを書かせていただきます。

すごすぎる美食家の日常、食べ方を言語化した初の書籍

書籍「美食の教養」表紙

浜田岳文さん新刊『美食の教養――世界一の美食家が知っていること

この本を書いたのは美食家の浜田岳文(たけふみ)さんです。南極から北朝鮮まで127の国と地域を食べ歩き、世界一の美食レビュアーとして著名な方。予約しさっそく読ませていただきました。

どんな本か?最初にこう説明されていました。

これは、食通、グルメともてはやされたい人のためのガイドブックでは決してない。

誰かの基準に振り回されずに、食事を楽しみたい。

絶えず更新される「美味しさ」の秘密を知りたい。

食の最前線で活躍する人の創意工夫に触れたい。

この本は、食事を「栄養摂取」ではなく、「人生を豊かにするための手段」として位置づける1冊である。

『美食の教養』巻頭言より

完読した私がひと言で表すなら、「美食家の日常、食べ方を言語化した初の本」。

・高級店(または通常のレストラン)を訪れた際、何を考えながら食べればよいか
・どうやってガイド本やネットでよいお店を探すのか(食べログの活用法も)
・世間で「高級」と言われている食材の見極め方
・美食を味わう際のマナー(ファッションやテーブル作法)

など、リアルな情報がたくさん載っています。

名だたる美食家の指南書は100年以上前からすでに出ていますが、ネットやAI、日本と世界各地どこへでも行ける交通網が究極に発達した最新の世情で、「地球のグルメの歩き方」をここまで言語化した本はこれが初めてではないでしょうか。

「世界のグルメ」とくくるとちょっと浅い感じ。もはや「地球」と言っていいくらい、浜田さんのシェフや食材、店探しの掘り下げ方が深いのです。

そして過去に出ている美食指南本は、「グルメな自分は普通の人と違う」というマウント前提が多いように思います(日本人の著者が特に)。

しかし浜田さんの本は、そうしたグルマンのおごりのような感情を極力抑え、フラットに情報を届けようとしているのがわかり、好感が持てました。

美食家とは格闘家(フードファイター)に近い

書籍「美食の教養」中面

もう一つ思ったのは美食家=食の格闘家(フードファイター)なのだと

浜田さんの美食歴が細かく書いてありますが、制覇力がすごい。日本国内はもちろん、海外はフランス・イタリア・スペイン・デンマークなど美食が有名な国は年に何度も訪問されています。

また「いい店がある」と聞けばアルジェリアや南米のコロンビア、中米のグアテマラと美食としてはマイナーな国まで網羅。行ったからには2、3週間滞在し、昼夜コースをぶっ続けで食べ倒す(2週間滞在なら、そのエリアの同じ業態の店で毎日昼・夜14回フルコース食べ尽くし)。

興味がなく運動はされていないそうです。内臓にも相当負担がかかる生活で、健康リスクは当然あるでしょう。それでも美食を探求するために健康を度外視してフルコース中心に食べ続ける。まさに格闘家ですよね。

そしてなにより美食探求はお金がかかるのです。浜田さんはお酒が飲めない体質だそうで、その分金額は抑えられていますが、都内の三つ星店、または日本料理店で食べればノンアルでも1食6、7万はかかります。海外はもっと高い。

体力と経済力を合わせ、美食を極めたいならそのくらいの覚悟が持てるか、と問われているように感じました。

「自炊版“美食の幸せ”」を捨てる勇気に感服

ちなみにこの生活なので浜田さんは外食のみ。自炊する人をリスペクトしているが、レストランでの美食探求がライフワークなので、ご自分では料理を一切しないそうです。

レストランも好きだけど料理を作るのが大好きなわたしは、同じ「食に最大の興味がある人間」として、浜田さんの「自炊版“美食の幸せ”を捨てる勇気」に感服しました。

とっておきの卵でオムレツを焼き、香ばしいバタートーストとほおばる朝。
夏に冷えたスパークリングワインと、自分で包んでカリカリに焼いたギョウザを合わせること。
牛すじでだしを取った濃厚なおでんを作り、熱々の大根とハイボールと味わう楽しみ。

こうした「最高の(おうち版)美食」を、わたしはとても切り捨てられない……やっぱり真の美食家からはほど遠いなと。

フードライターと美食家が別の生き物だとあらためて認識

書籍「美食の教養」中面

わたしは執筆が仕事で、食の取材だけを20年以上続けています(詳しくはぜひ拙著
フードライターになろう!』を)。

職業はフードライターをしています、と言うと毎回「おいしいお店たくさん知ってるんですね!」と言われますが、本当はそのときみなさんがイメージされている人こそ、浜田さんのような人(=美食家)なんだな、と本を読んでよくわかりました。

食の取材は長くしているし、ミシュラン星付き店を食べに行ったりするけれど、そうした店だけでなく商業ビルのレストランフロアやガード下の居酒屋など、いろいろな飲食店を回ります。調味料メーカーや先日テレビで解説したかっぱ橋道具街の取材もあります。

一方、浜田さんはシェフの哲学や信念が込められた料理以外は一切食べない、逆に口に入れることになったときはイライラする、そしてそんなものを食べるくらいなら24時間の絶食はまったく問題ない、と書いてあり……そう、美食家とはこういう人です。

食のプロでも雑食なわたしとは真逆。ミシュランシェフやパティシエにたくさん知り合いがいるとか関係ない。つまり、フードライターと美食家は別の生き物なのです。そのことをいやと言うほど突きつけられました。

フードライターは文章のプロ

「フードライター=おいしいものを食べ歩いている人」と言われるたびにずっと違和感がありました。しかし食には正面から関わっているので、自分の立ち位置が謎で悩んでいましたが、この本を読んですっきりしました。

わたしはここまで高級店は食べ歩いていないけれど、食の総合的な知識や体験値はあるので、それを言語化したり情報を伝えることはできる。文章力という技術を持って、フードライターは職業として成立するんだと自信を持てました。

そして自分がわかっただけでなく、コンビニスイーツやカレー、ラーメン、ハンバーガーなど安いジャンルでも、食の一つの分野を極めたなら、立派にフードライターと名乗れるのだとも気づきました(ただ「ライター」なら、写真や動画でコンテンツをごまかすのではなく、しっかり筆力を鍛錬した上で食の文章を発信してほしいですけどね……)。

いろいろ個人的な極論も書いてしまいましたが、美食家を目指す人、フードライターになりたい人、職業として食の発信をしたい人にはかなり勉強になる一冊です。

書籍「美食の教養」表紙

食に興味がある人、食の関係者必読です!「美食の教養――世界一の美食家が知っていること

それでは、今日も最高においしい1日を!

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