フードライター浅野陽子の美食手帖

食の取材歴20年のフードライター(子育て中)がレシピ、レストラン、仕事話などを紹介するブログです。著書『フードライターになろう!』全国書店で発売中。

【本】“火鍋界のスタバ”の表と裏を日本人ビジネスマンが描く『海底撈~知られざる中国巨大外食企業の素顔~』

書籍『海底撈(かいていろう)』の書影

『海底撈~知られざる中国巨大外食企業の素顔~』(山下純・著)(c)asanoyoko.com

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“火鍋界のスタバ”の表と裏を日本人ビジネスマンが描く『海底撈~知られざる中国巨大外食企業の素顔~』

食限定の取材歴20年、フードライターの浅野陽子です。久しぶりにブックレビューです。
食がテーマの本ですが、内容は食べ物よりもかなりビジネス寄り。大企業で働く人にとっての「人生における仕事」や、働き方について考えさせられる本でした。特に、中国人がビジネス相手の人には、リアルに役立つ部分も多そうです。

また、将来フードライターや食の発信者になりたい人は、こうした「いわゆるグルメ情報」以外の食のビジネス本も書き手のニーズがあるので、“芸域を広げる”のにもおすすめです。

海底撈 知られざる中国巨大外食企業の素顔

『海底撈(かいていろう)~知られざる中国巨大外食企業の素顔~』(山下純 著)徳間書店

マクドナルド、スターバックスに続く「世界第3位の外食企業」を目指す「海底撈(かいていろう)」。中国・四川省発の国内最大の火鍋専門チェーンです。

辛いスープと辛くないスープ、鍋の具材、タレを自由に組み合わせて、しゃぶしゃぶのように楽しむのが「火鍋」。中国では人気料理でたくさんの火鍋専門店があるものの、海底撈は時価総額5兆円(21年1月時点)、年間2億人が来店するケタ違いのトップ企業です。※世界の外食市場で1位のマクドナルド、2位のスターバックスはそれぞれ時価総額10兆円超。

この本ではその強さの秘密を、著者の山下純氏(パナソニック現社員)が詳しく解説しています。なぜパナソニックの人が中国の会社について書けるかというと、海底撈は巨大チェーンのサービスやオペレーションの大部分を、パナソニックと組んで自動化しているため。

冷蔵庫から具材を取り出す際にロボットアームを活用したり、スープ(8種)×具材(60種)×タレ(20種)の組み合わせ(合計9600万通り)をデジタルデータ化し、次の来店時にも同じお客が同じパータンを完全再現できるようにしたり。

こうしたお客から見えない部分の運営は、最新技術で自動化している飲食店を「スマートレストラン」と呼ぶそうです。

本『海底撈(かいていろう)知られざる中国巨大外食企業の素顔』の目次部分の画像

学歴社会、地方出身者に強烈なハンデがある中国での、サクセスストーリー。(c)asanoyoko.com

創業者の張勇(ジャン・ヨン)氏は四川省出身で、中学卒業後に工員として働いた後に地元の仲間と海底撈を起業しました。学歴・コネなし、地方都市(農村)出身という、中国社会ではハンデの多い出自からチャイナ・ドリームを果たした人。若い頃から、松下幸之助の経営哲学に傾倒していたそうです。

海底撈の「変態級接客サービス」(長い待ち時間中、ネイルサービスや子守り、靴磨き、買い物代行、仮眠のサポートまで、お客に頼まれればなんでもやる)や、「九◯后(ジウリンホウ・90年生まれのデジタルネイティブ世代)をリピーターにするための施策」(SNSで話題のタレを店の公式メニューにしてしまう)など、中国流の“ぶっとんだ”各事例は、読んでいて面白いです。

本『海底撈(かいていろう)知られざる中国巨大外食企業の素顔』の裏表紙の画像

「変態級接接サービス」の部分は特に読みごたえあり。(c)asanoyoko.com

日本人の目から解説した、中国独特の商習慣や、中国人とビジネスをうまく進める方法は、日本のビジネスパーソンにも参考になるでしょう。

日本に来る中国人がインバウンド消費で日本製の高級品を爆買いしてくれていたというような表面的なメリットではなく、中国ビジネスに内包されるもっと本質的な価値を示したいと考えた。<中略>

本書で紹介した海底撈という一企業の観察を通じて、今の中国で何が起きているのか、この先どこへ向かっていくのか、我々日本人はどのように未来を選択していくべきかを少しでも考える一助になれば幸いである。(P.188 「おわりに」より抜粋)

この本の言いたいことは、ここに凝縮されています(個人的には「あとがき」じゃなくて最初に持ってきたらより読みやすかったのでは)。私は飲食業界と近いものの、中国の人とは直接仕事をしていないので、途中でふわふわと読み進めた部分もありましたが……

少子高齢化、景気も給料も停滞、マーケットが縮んで若い世代は、好景気の国に「出稼ぎ」に出る人までいるという今の日本。とはいえ、1億2000万人もの人口を抱え、まだ先進国の一つではあるわけで。過酷な状況の中で生き延びる方法を、日本人みんなが探らなければなりません。

日本の飲食業界だって「昔よりみんな食や酒にお金を使わない」「若い働き手が見つからない」なか、やっていかなければいけない。

こうした成功事例を本で疑似体験し「明日自分ができることはなんだろう」、と考えるだけでも一つの前進だと思います。

それでは、今日も最高においしい1日を!

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