フードライター浅野陽子の美食手帖

食の取材歴20年のフードライター(子育て中)がレシピ、レストラン、仕事話などを紹介するブログです。著書『フードライターになろう!』全国書店で発売中。

[速報]無観客の東京オリンピック開会式を見て気づいた偶然と必然

渋谷駅構内に掲示された「TOKYO2020」(7月21日撮影)

渋谷駅構内に掲示された「TOKYO2020」(7月21日撮影)

こんにちは、フードライターの浅野陽子です。

東京オリンピックが開幕しました。

昨晩23日夜8時から行われた開会式、ご覧になりましたでしょうか?

今回は、私がこの開会式をテレビで見て気づいたことを書きます。

近代五輪史上、初の無観客

www.nikkei.com

新規感染者が連日2000人に迫り、緊急事態宣言下の開催なので、無観客で行われた開会式。

ほとんどの会場が無観客で試合を行うため、当初の計画では約800万枚販売予定だった観戦チケットは、結局4万枚まで激減。

近代オリンピック史上では初の無観客開催だそうで、「一体誰のためのオリンピックなのか」という国民の不満が噴出しています。

無観客なのに人がいる?

ただ、昨日テレビで観ていて不思議だったのは、観客席の様子。

収容人数68,000人だという国立競技場が、ごく一部の関係者をのぞいて無観客のはずが、「あれ、客席に人が座っているのかな?」と勘違いしてしまうような「人が入っている感」がありませんでしたか?

遠くから撮影しているシーンでは、客席がぎっしり埋まっているように見えます。

でも入場する選手団がアップになり、客席も映ると誰も座っていない。

客席のシートの色がバラバラなので、さも人がいるかに見えるんですね。

その前日の夜8時から、調布の東京スタジアムで行われたサッカーの試合(男子一次ラウンド/日本 vs 南アフリカ)は客席のガラガラ感が非常に目立ち、「あーあ、無観客のオリンピックってこんなさみしいんだ」とがっかりしながら観ていた分、驚きました。

「これは、オリンピック組織委員会の演出?開会式を人が入っているように見せるため、客席1個1個にカバーをかけたの?」といろいろ考えていたのですが、こちらのインタビューを読んで合点。

www.asahi.com

隈研吾さん、想定外の国立競技場「コロナの偶然と必然」 - 東京オリンピック:朝日新聞デジタル

国立競技場を設計した隈(くま)健吾さんが、「もともとオリンピックが終わった後も、満員にならないイベントをやるとき、人が少なくてもさみしくならず、少人数でも楽しさやにぎわいが感じられるように」と客席シートを1色でなく、5色使う配色にしたのだそうです。

コロナはもちろん想定外で、もちろん偶然なのでしょうが、昨晩の「さみしくない」開会式にはカラフル客席効果が絶大。

隈研吾さん、あらためて、どれほどの天才なのでしょう……

いつか飲食業界や食のサステナブルも「コロナ禍五輪の必然」が来るのか

ちなみにコロナ禍で飲食業界が深刻な影響を受けているのはご存知だと思いますが、オリンピックの延期と海外観光客の受け入れ停止でさらに大打撃を受け、今回の無観客開催決定で、本当に最後のダメ押しされたという感じです。

取材をしていて昨年2020年は新しくオープンしたレストランもずいぶん回りましたが、原宿や丸の内、新宿、銀座など「いかにも外国人観光客が集まりそうな場所」に作られた店ばかりでした。

いずれも、オリンピックのインバウンド需要を狙って、本来は2020年夏前にオープン予定だった店ばかり。

出店計画というのは1年〜1年半くらいの予定で組まれ、オープン前の準備段階から家賃や冷蔵庫のレンタル費用などコストが発生するため、コロナ禍でもなんでも、もうお店を出して営業を始めるしかないのです。

なのに、見込んでいたお客さんが激減しているところに度重なる自粛、時短営業、そしてお酒(要は重要な商品)の提供禁止……

飲食店がどうにもならない状況、わかっていただけますでしょうか?

海のエコラベルの画像

魚の獲りすぎを食い止める、サステナブルな漁業の水産物のみに付けられる国際エコラベル

そして私の仕事上、もう一つ大きかったのは、今回の「無観客開催」です。

無観客ということは、会場にお客さんが一人も入らないため、そこで発生するはずだった飲食もゼロになってしまったということ。

選手村やオリンピックの会場内のレストランでは、私が2016年からアンバサダーやウェブサイトの公式ライターを請け負っているMSC「海のエコラベル」の魚製品が提供されるはずでした。

オリンピック会場にはたいていマクドナルドの店があって、そこで提供されるフィッシュバーガーにもこのエコラベルが付いています。

サステナブル(持続可能)」という言葉はここ2〜3年、少しずつ広まっていますが、消費者の世界ではまだファッションや他の業界がメインで、食の業界では遅く、先進国の中では日本は遅れています。

ロンドンオリンピックや前回のブラジル・リオオリンピックでは、大会中のPR戦略で、国民のサステナブルへの意識が一気に高まったと言われています(街中や試合会場で「食のサステナブル」の告知を頻繁に目にするため)。

東京オリンピックもそれを進める大きなチャンスでした。

2016年からずっとメディアで伝えたり、文章で書いたりしてきたのに、無観客決定でそのチャンスごとなくなるとは……5年前、誰が予想したんだろうと。

未来のことは誰にもわかりません。

いつか振り返って「あのコロナがあったから、今があるんだ」という必然性を実感できる日は来るのでしょうか。

今月初めに取材したある居酒屋チェーンのオーナーは「これからワクチンが浸透して、あと半年くらい経ったらきっと元に戻ると信じている」とおっしゃっていました。

ここが一番底なら、あとは上がるだけ。

きっとこれも必然。そう信じながら、自宅で静かにオリンピックを観戦したいと思います。