フードライター浅野陽子の美食手帖

食の取材歴20年のフードライター(子育て中)がレシピ、レストラン、仕事話などを紹介するブログです。著書『フードライターになろう!』全国書店で発売中。

信じられない、木村花さん急死のニュースに40代が思うこと

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公式ウェブサイトより
いつもは食やフードライターとしての話を書いていますが、今日は世間で大きな話題となっているこの件について。

SNSの功罪、著名人への誹謗中傷問題、番組制作者への非難など、いろんな意見が飛び交っています。が、ここではそういった、社会的側面からの意見は控えます。

私は単純に、年甲斐もなく『テラスハウス』が好きで、出演中の木村花さんも好きで応援していたので、訃報を聞いた時のショックからまだ立ち直れていません。

本当にいい年をして日常のことが手につかず、ただ、自分の気持ちを整理するために今回の記事を書きます。

食の話題以外ご興味がない方は、飛ばしてくださいませ。 (画像は「テラスハウス公式Facebookページ」より引用させていただきました)

リアルじゃないけどいろんなことを教えてくれたリアリティーショー

テレビを見るのが好きな家庭に育ち、家族全員で子どもの頃からいろんな番組をよく見ていました。

『あいのり』や『電波少年』などのリアリティーショーも好きでした。

社会人になってからも『ASAYAN』でモーニング娘。ががんばってデビューしようとする姿を見て、当時不満だらけだった自分の会社員生活と重ね、応援することで何か私自身も躍進できるような気がして、夢中で見ていました。

結婚し、だいぶ大人(35歳以上)になってからも、ますます年甲斐もなく、リアリティーショーが好きになりました。

私が20代の頃、今の自分の年齢くらいだった母が私より『あいのり』にハマっているのを見て「中年が若者の行動をウォッチして、なにがそんなに面白いのか?」と不思議に思っていたのですが、当時の母の気持ちがよくわかりました。

リアリティーショーで、若者が恋愛や人生に葛藤する姿を見ると「実現できなかった別の自分の人生」を、もう一度トレースできるような気がするのです。

これは、完全に脚本があり「フィクション」の前提で、俳優さんたちが役名で演じるドラマでは、得られない感覚です。

まだ気持ちの整理がつきません

そしてNetflixが登場し、復活した『あいのり』や『バチェラー・ジャパン』などさらに楽しめるリアリティーショーの幅が広がり、なかでも『テラスハウス』は一番面白かった。

「テラハは映画化された第1シリーズでやめておけばよかった」「それ以降は落ち目」という意見も読みましたが、私にとってはそれ以降も十分楽しめたし、そして去年からまた新しい東京編が始まって、毎週楽しみにしていました。

ところがコロナで一時休止に。そして「とりあえず4週分だけ放送する」と再開した矢先の、土曜日の木村花ちゃんの訃報。

テラスハウスには過去の出演者で、心筋梗塞で若くして急死してしまった方がいます。最初は花ちゃんも病気か、事故?と思ったら、どうも自分で自分を追い込んでしまったらしいと聞いて……本当に、信じられない気持ちでした。

・言動は荒々しい部分もあるけれど、内面はとても繊細な女の子だった ・コロナ禍で世の中全体が鬱々としていた時期と、ちょうど問題シーンの放送日(フジ地上波の方)が重なって、ストレスのはけ口となってしまった ・時期的に撮影が(メンバーたちとの同居も)中止となっていて、すぐ身近に相談できる人がいなかった ・プロレスの公演含めたイベントが次々と中止になり、花ちゃんのアイデンティティーを表現できる場もなかった

と、いろんな要因がたまたま重なり、それが最悪の事態につながってしまった……しかも第一発見者は40代のお母様だったと。同世代の自分と重ね、胸が苦しすぎて言葉を失います。

同居していたメンバーたちもまだ若い子ばかりで、彼らも今一体どうしてるんだろう。大人とはいえ、まだ人生経験がそんなに豊富でない20代前半で、この事実を受け止めきれるのだろうか。

テレビマンは悪人ばかりではない

また訃報を聞いて、このテラスハウスの企画を数年かけてやっと通したという、制作会社の女性プロデューサーのことも思い出しました。私と同世代で、フジテレビの「ボクらの時代」なども企画したプロデューサーさん。

インタビュー(フジテレビ『テラスハウス』『セブンハウス』プロデューサー松本彩夏さんインタビュー『キラキラした部分だけが人生の全てじゃないことを伝えたい』)で、「まだ有名になっていない『途中』の人に光を当てた番組を作りたい」と語っていました。

「花さんを追い込んだのは悪意ある番組制作者」という意見も多数出ていますが、仕事に真摯に取り組む彼女のインタビューを読むと、とてもそんな風に思えない。

テレビ番組というのはテレビ局の社員でなく、その下の制作会社の人たちが企画を考え、作っています。

私は本当に少ないですが過去に7回テレビ出演していて、それぞれ違う制作会社の方と会いました。しかし「わざと悪者に仕立てる」「どうせ素人演者だから邪険に扱う」などというテレビマンは一人もいなく、純粋でいい方ばかりでした。

あるバラエティーでは私がプロの料理人が作る料理の審査員を務めたのですが(こちらの記事)、ディレクターさんに「悪いところは言わずに、いいところ、ほめるポイントを見つけてコメントしてあげてください」と指示され、なるほど、と感じたものです。

今回、演出が過剰な部分は確かにあったと思うけれど、テラスハウスの制作チームも、出演者たちを貶(おとし)めようなんて思っている人はいないでしょう。

むしろ彼らが制作したものが、出演者を追い込み、22歳で人生を終わらせる結果になってしまうなんて、どれほど胸を痛めているんだろう……内部の人たちのショックも計り知れないと思います。

 

テラスハウスはこれで終了してしまうでしょう。

木村花さんのご家族、親しい方々、出演者……単なる1視聴者の私がこれだけショックを受けているのだから、彼らの悲しみは一生消えないでしょう。

「木村花さんの件を教訓に、今後のテレビ番組のあり方を」とか書いている人がいるけれど、私自身はそんな次のステップに進む気持ちにもなれません。

ただわかったのは、ショックを受けている人には、そういう「前向きな」言葉は一切不要ということ。「意味」なんて聞きたくないのです。言葉をかけずに、そっと寄り添ってあげればそれで十分なのです。

花ちゃんのご冥福を静かにお祈りします。