フードライター浅野陽子の美食手帖

食の取材歴20年のフードライター(子育て中)がレシピ、レストラン、仕事話などを紹介するブログです。著書『フードライターになろう!』全国書店で発売中。

旅好きシニア必読!もしも海外旅行中に病気になったら絶対やるべきこと4つ

最近、海外旅行を楽しむシニアは多いですが、旅先での病気の備えはできていますか?

先日、超健康体を自負していたわたしの父(70代)が、タイ旅行中に突然、脳卒中で入院しました。

幸い軽度で後遺症もなく、リハビリ入院を経てじきに家に帰るところです。しかし、当初は手術が必要と言われ、家族として急きょタイの病院に呼び出されて、そのまま2週間、父に付き添うことになりました(母は数年前に他界)。

今回は、同じ体験に会った方がわたしたちよりスムーズに解決できるように、「シニアが海外旅行中に病気になったら絶対やるべきこと」をまとめます。

バンコク病院

写真:バンコクから4時間かけて父を迎えに来た、病院のプライベート救急車(後述)

大きな病気のときほど「とにかく大きな病院」に転院する

バンコク病院

写真:父が転院後、2週間治療したタイ最大の医療施設「バンコク病院」

「重症なときほど大きい病院で診てもらえ」。日本でも当たり前のことですが、今回ほど強く実感したことはありません。

最初に父が脳卒中を発症した場所は、カンチャナブリという、タイの首都バンコクから車で3-4時間ほどの地方都市でした。

特に何もない場所ですが、ゴルフ場と宿泊施設があります。父は、友人たちとのゴルフ旅行中に倒れて、運ばれました。

タイの病院

写真:父が脳卒中を発症後、すぐに入院したタイ郊外の市民病院

すぐ現地の病院に入院して応急的な治療は受けたものの、クーラーはなく、医療用具は土足で出入りする床にじか置き、看護師は少なくほぼ放置。

そして父を診た医師は「あなたはかなり軽度で済んだし、もう帰国してオッケー!」と気軽に言い放ちました。

しかし日本の医療レベルを知っている身としては「ちゃんと診てもらわないと、エラいことになる!」と直感しました。

タイの病院

写真:看護師が少なく、患者の家族は病室の外のベランダで生活?しながら24時間付きそう。日本ではあり得ない光景。

そしてそこからが大変!

病院では英語がまったく通じず、タイ語のみ。また、郊外でスマホやインターネットもまったくつながりません。

かろうじて片言で英語ができる医師をつかまえて、「バンコクに移動して、一番大きい病院に移りたい!」と交渉。

朝から夜までかかりましたが、どうにかその日のうちに、「バンコク・ホスピタル(通称:バンコク病院)」というタイ国内で最大の先進病院に転院できました。

結果としてこの判断は大正解でした。

バンコク病院

写真:迎えにきたバンコク病院のプライベート救急車。医師、看護師、救急隊員2名が同乗。タイでは救急車は公共のものでなく、各病院が救急車を保有している。緊急時はヘリコプターも出動。

バンコクへ転院後、CTなどひと通り検査を受け直したところ、父は「幸いとても軽症だが、脳内にまだ血腫が残り、飛行機に乗れる状態ではない。また、発症後からまだ2日で、再発するリスクが大きい時期なので絶対安静。勝手に歩いたり立ったりするのはNG」という診断。

そしてそれから2週間、最後に脳神経科とリハビリ科の医師、そして航空専門医の3人の医師から「飛行機に乗ってOK」とお墨付きをもらうまで、安静入院をすることになったのです。

父は意識や気力もあり、そのまま日本に帰国する気満々でした。バンコクに行かず、最初の診断のまま飛行機に乗ったらどうなっていたか…考えると恐ろしいです。

バンコク病院

写真:移送されたバンコク病院は、東京のレベルをしのぐ先進医療設備。初日から病院専属の日本人通訳が付き、看護師含めて病院のスタッフ全員英語が話せる

入院中に日本での受け入れ先を見つけておく(難航するのを覚悟)

バンコク病院 病室

バンコク病院 付き添い

写真:病室のテレビ・冷蔵庫(写真上)と、患者に付きそう人用の簡易ベッド(下)。シャワー、wi-fiも部屋ごとに完備、タオルやシャンプーなどアメニティはホテルのように毎日交換される。

バンコクで父が入院している間、私は付き添いながら「帰国後の受け入れ病院探し」に奔走しました。

軽いケガや風邪など、旅行中に現地で治療が完結すれば問題ないですが、今回の父のように、脳卒中発症後のケアで、帰国後にもリハビリなど入院が必要な場合は本当に大変です。

もし日本で緊急症状が起きた場合、まず救急車か、自力で救急病院に駆けつけて応急治療を受けます。

するとその病院側が、次の転院先を探して患者の情報を共有し、スムーズに手続きしてくれます。

しかし、海外の場合はすべて自己判断・自己責任。日本での病院探しは患者か家族が、自分でやらなくてはいけません。これが想像以上に大変で…。

バンコク病院

バンコク病院 アメニティ

写真:バンコク病院ブランド」の水やティッシュ、アメニティを毎日交換してくれる。入院時、日本のようにタオルや洗面道具の持ち込みは一切不要。

バンコクではネットがつながったので、父の症状に合いそうな病院や診療科を検索し、日本のいろいろな病院へ国際電話をかけて(最初からメールでOKという日本の病院はない)、状況を伝えました。

すると「海外から直接患者さんを受け入れたことは過去にない。いったん日本の医療機関を通してから来て欲しい」とどの病院でも言われ…「このまま家に帰せる状態じゃないし、どうすればいいんだろう」と、連日頭が痛くなりました。

結果的に、唯一予約を受けてくれたのが某大学病院でした。タイから10回以上国際電話をかけ続けてやっとつながり、さらに奇跡的に、父の帰国当日に予約日を調整できたため、父は羽田空港から大学病院へ直行。

しかし、診察は受けられたものの、大学病院なので入院は一年待ちと判明!そのまま入れる気でいたので、家族でパニックに陥りました(>_<)

とっさの思いつきで大学病院からその場で紹介状を書いてもらい、その日は都内の地元の小さな総合病院で受け入れてもらうことができました。

数日入院し、そこの病院のソーシャルワーカーさんが動いてくれて、やっと当初希望していた都内の脳卒中のリハビリ専門病院に転院できました。

バンコク病院 リハビリセンター

バンコク病院

写真:病院の隣にあるバンコクリハビリセンター。コンビニ、ショッピングモール、レストランとも連結し、車椅子や杖の人もすべてバリアフリーで行き来可能

思い出すと「暗中模索」という言葉がまさに当てはまる日々…よくうまくいったなあと運命に感謝です。

要は「海外の病院から転院する」のは、患者や家族が知識ゼロのなか、素人判断で進めなければならず、相当難航するのを覚悟、です。

入院中の病院に紹介状(英語でOK)を書いてもらう

診断書

そして、帰国後も日本の病院で治療や再チェックを受けたいなら、退院前や外来受診時に、現地の病院で必ず紹介状を書いてもらいましょう。英語で「Referral Report」と言います。英語のままで大丈夫です。

症状が起きてから現在までどのような経過をたどったのか、海外の病院でどのような治療をしたのか、まとめた手紙。脳のCT画像など、画像診断の結果を入れたCDが添付される場合もあります。

日本の病院に持ち込む際、通常は返却してもらえません。今回のわたしたちのように、複数の病院にかかる可能性もあるため、1通以上もらっておくと安心です。私は念のため10通ももらってしまいました。さすがにもらいすぎ…。

領収書と診断書をもらって大事に持ち帰る(帰国後の保険申請のため)

病院からの紹介状

そして病院の領収書は絶対になくさず、日本まで大事に持ち帰ります。帰国後に保険請求をするためです。

海外旅行保険に入っていれば旅行中に降りる場合もありますが、海外旅行保険でなくても、たいていの大人は普通の医療保険には加入しています。「入院日額◯万円」など、ケガ・病気の治療や入院に支払われる保険です。

海外にいる間に自分の入っている医療保険の窓口を調べて日本に電話し、申請にどんな書類が必要か確認しておくと確実。どの保険会社でも、領収書は必ず「帰国後に要提出」と言われるので、申請まで大切に取っておきます。

た「海外療養費制度」という、現地で払った医療費を、日本の医療費基準で計算した額で帰国後に戻してくれる制度が、国保をはじめ、各健保にあります。この申請には病院の「診療内容明細書(=診断書のようなもの)」が必要です(参考:全国健康保険協会ウェブサイト「海外療養費とは」)

バンコク病院では何も言わなくても退院時に作ってくれましたが、これもどんな書類が申請に必要か、滞在中に自分が加入している健保に確認しておきましょう。

プチ情報:帰国して「何科」を受けるべきか、迷ったら

バンコク病院 スタバ

写真:バンコク病院内のスタバ。ショッピングモールとまちがえそうなオシャレさでした。

最後にプチ情報です。病院に通い始めると、医師や看護師など、医療者にとっては当たり前のように知っている用語や知識も、意外とわからず困惑します。

<切ったら外科、切らなかったら内科>

同じ診療科でも、内科か外科かどっち?医療者からすると常識中の常識ですが、素人はわかりません。そして予約電話では、迷っても教えてもらえません!(日本なら紹介状の宛名に明記されているため)

脳卒中になった患者が受ける診療科」には「脳神経外科」と「脳神経内科」があり、「どちらの予約を取りますか?」と聞かれて困惑するのです。

でも「切ったら(=手術をしたら)外科」、「切らなかったら(=点滴や投薬で済んだら)内科」です。たとえば、妊婦さんが通う産科は、帝王切開など手術をする科なので「外科」。

<マニアックな言い換え>

病院では体のパーツを、難しい呼び方で言います。これも普通に聞かれますが、困惑するので覚えておくとラク

心臓=循環器科 肺=呼吸器科 胃・内臓・肝臓など=消化器科

そしていずれも「切ったら外科、切らなかったら内科」が後に続きます!(例:消化器内科・消化器外科)

追記:出発前にチェック!外務省サイト「世界の医療事情」がわかりやすい!

外務省

公開後に追記します。この記事を読んだわたしの友人で、まさに海外の医療現場最前線にいる現役の日本人医師が教えてくれた、このページが便利でわかりやすい!→★外務省ウェブサイト「世界の医療事情」

各国の国際電話の国番号(意外と必要)、日本大使館の連絡先、医療事情全般、かかりやすい病気上位10個などが簡潔にまとめてあります。

ちなみに今回行った「タイ」の医療事情のところには

バンコクでは、代表的な私立病院の医療水準はかなり高く、日本の病院と比較しても遜色はないと言えます。それらの病院では、また日本語通訳(日本人又はタイ人)が勤務し、専用窓口を設けるなど、日本人受診者の便宜を図っています。なお、私立病院では診察料・治療費等は各々の病院が独自に定めており、全般に日本と比べて安価とは言えませんので、支払い時のトラブルを避けるためにも、事前に料金等を確認するか、または海外旅行傷害保険などの保険が適用されるか確認することが必要です。保険への加入を是非お勧めします。

と書いてあり、リアルでまさにその通り…出発前に前に、ぜひ自分が行く渡航先の情報を要チェックです!!

ちなみにこの情報の下には「もしもの時の医療英語」という便利なリンクもあり、ちょっと感動。

 

いかがでしたか?旅好きのシニアが知っておきたい「もしも海外旅行中に病気になったら絶対やるべきこと4つ」をご紹介しました。これだけ知っておけば、旅行好きの方やそのご家族も万が一がのことが起きてもスムーズに解決できます!次回は続編として「海外旅行中に病気になったら」の「お金編」を書きます。