食限定の取材歴25年、フードライターの浅野陽子です。
今日は少し趣向を変えて、最近読んで面白かったグルメ本のご紹介。
柏原光太郎さん著『東京 いい店はやる店 バブル前夜からコロナ後まで』(新潮新書)の読書レビューです。
単なるレストランガイドではない
1963年生まれの著名なフードプロデューサー柏原光太郎さんが、1980年代のバブル前夜からコロナ後の現在までの日本の現代グルメ史をまとめたのが本書。
新卒で文藝春秋入社、「東京いい店うまい店」編集長を務め40年以上、食の世界を見てこられた柏原さん。大変な知見をお持ちです。
フレンチ・和食などジャンル問わず、老舗を含むたくさんの有名店の名前が出てきます。
すでに閉業しているお店も、今も続いてるお店も両方ある。
いいお店探しの本としても使えますが、単なるレストランガイドではなく「グルメ史」を学ぶのに最適です。
中年グルメ好きは懐かしい情報が凝縮、食の文筆家を目指す若い世代は必読の書
1974年生まれのわたしは柏原さんの一つ下の世代。
柏原さんたちバブル期のお兄さん・お姉さんが華やかな大人ライフを謳歌していて。
「社会人って楽しそう!」と憧れていたのが、いざ大人になったら不況で全部終了していたという、可哀想な層です(涙)
それでも、社会人の始まりはバブルの最後の残り香を味わえて。
本書を読んでいたら、そんな若かりし頃の記憶が蘇りました。
バブルのイタメシブームから料理の鉄人、エル・ブジとサン・セバスチャン、コロナ禍と現在の食インフルエンサーやフーディーブームまで。新書なので200ページにぎゅーっと凝縮。
今40代後半〜アラカンのグルメ好きなら「あー!懐かしい!」と読みながら叫びたくなるはず。
懐かしいのもありますが、フードライターには「これだけの濃い情報を、コンパクトによくまとめてくださいました」とただただありがたい。勉強になる本でした。
これから食の文筆家として生きていきたいなら、まずは必読の書です。
しかしこれからのフードライターはどうやって糊口(ここう)をしのぐのか
一方で、読みながら思いました。これからのフードライターや食の文筆業は、一体どうやって生きていけばいいのか。
具体的には、どうやって自分で食べ歩いて知見を高めながらも、それに見合う収入を得ればよればよいのか。
柏原さんが現役の会社員だった時代は、出版業界全盛期。
日本で最も雑誌が売れていたのは2006年です。それより前の、本書にある80年代はまさにバブルで、糸井重里さんや林真理子さん、山本益博さんたちが大活躍の時代。ライターの原稿料も高かった。
フードライターは書く場所も収入を得る手段もあったわけです。
でも今はどんどん雑誌が売れなくなり、ELLE gourmetやdancyuも月刊誌だったのが季刊誌になり、書く場所は消滅しています。
なにより我々プロが丁寧に取材してチェックを重ねて出す濃い食の記事よりも、新しい店や食べ物の情報を、スピーディーにどんどん、忖度なく出す個人の発信の方がウケる。
しかも飲食店の値段はどんどん上がっています。ミシュラン星付き店なら1食一人3万円はザラ。3つ星店に至っては、7万円〜10万円。
フードライターならこうしたお店も定期的に食べ歩いて勉強を続けなければならない。どうすればいいの?それについての柏原さんの考えや提言を聞きたい。続編お待ちしてます!
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ちなみにこの問いについてわたし自身が考えて、出した答えはnoteにまとめています。よかったらぜひお読みください。
「稼げるフードライターの条件(後編)ーリアルなお金問題とその解決法を語ります」
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それでは、今日も最高においしい1日を!
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