食限定の取材歴25年、フードライターの浅野陽子です。
今日は土曜なので本の話を書きます。
飲食業界の有名人・鳥羽周作シェフ著『おいしいをつくる思考法』の書評です。
数年前のスキャンダルの衝撃がまだ抜けないかもしれませんが、私はそれよりだいぶ前に鳥羽シェフに仕事でお会いしていて。
コロナ禍を経て、シェフが日本の飲食業界に新しい道筋を提示した功績は大きい。そしてそのノウハウがめちゃくちゃ細かく公開されているのです。飲食で生きていきたい人は必読の書。

※いつもですが、広告費などは一切いただいていません。読んだ自分の感想だけを書いています。
「料理人の本」ではない、戦略と再現性の話

鳥羽シェフに仕事(取材)で初めてお会いしたのはコロナよりずっと前の2019年初頭だったと思います。代々木上原の「sio」に伺い、「ギャハハハ」「うーんめー、うめー、何これ!」と厨房でスタッフの方達と大声を上げながら新メニューの試作をされていて。
「豪快な、クマさんみたいな料理人だな。素直な人なんだな」が第一印象でした。

それでその後、「sio」はさらに大人気店となり、鳥羽シェフは新しい業態の新店を続々オープン。
そこにコロナが来て緊急事態宣言・アルコール提供自粛という誰も経験したことがない「飲食業界パニック」が起きて。
その中でファインダイニング店のテイクアウトを考えたり(かつてはなかった)、「朝ディナー」という新しい打開策を打ち出したり、YouTubeで高級店のシェフがコンビニのジャンクフードで作るおいしい家レシピを公開したり……鳥羽シェフの発想と実行力はすごかった。
この本では考え方や運営のやり方をすべて公開しているのです。しかも細かい。
神経質な料理人って結構多いのですが、鳥羽シェフは初対面の豪快さが強すぎて。この本を読んでいて「鳥羽シェフ、こんな繊細にロジカルにいろいろ設計する人だったんだ……」と別の意味で驚きました(シェフごめんなさい、ほめてます)。
「おいしい」「料理がすばらしい」だけでは飲食店は続かない

素人ですら料理がうまいと、周りから「お店オープンしちゃえば?繁盛しそうじゃん!」とおだてられますが、レストランで出す料理が「おいしい」のは当たり前。
お店は食材を仕入れ、人(お客さん)を入れ、スタッフを回し、利益を出して運営していかなければいけません。

私もフードライターとして店取材するときは「料理や店作りのこだわり」を重点的に聞きますが、レストランをやるなら、知るべきは「どうやって儲けを出し、店を長く運営していくのか」という具体的なノウハウなんですよね。
また若者がいなくて人手不足の今、どうやって優秀なスタッフを探して働き続けてもらうのか、そのスタッフに払う給料はどう考えるか。
またコロナ禍のような未曾有のピンチをどうやって乗り越えたのか。
そんな絶対同業者にオープンにしたくない情報まで細かく記述。
しかし、それがなんでオープンにできるか、という背景まで親切に書いているのです。

シェフの名物料理や1品1品の料理の作り方はもちろん、メニュー(コース)を設計するときの理論まで公開。
SNS戦略とシェフのブランディング、だからこそのリスク

InstagramやX、YouTubeにnoteなどSNS発信が欠かせない昨今。SNS×個人店のリアルもがっつり記述しています。
鳥羽シェフはこれらを方針を決めて毎日発信。
自分自身を「ブランド」として売り込めれば、店営業以外の仕事も呼び込むことができ、飲食店の新しい生き延び方もあると言っています。
小さな戸惑いやつまづきはあったでしょうけど、きっとこういうの全部うまく行っちゃって、いろんなことが重なって数年前の例のスキャンダルも出ちゃったんでしょうね。
あれが出たのが、この本の発売の直前だったのをよく覚えています。この本が出ることを知っていた矢先だったので、仰天しました。好事魔多しですよね。
飲食店はシェフを筆頭に「人がブランド」で、だからこそ私生活の影響も計り知れないということを、皮肉にもシェフ自身が証明してしまった。
でもこの本の内容は、本当に唯一で。飲食店関係者や将来店を持ちたい料理人、食の発信者などすべての「おいしい」を仕事にしている人が読むべきだと思います。GWにいかがでしょうか?
それでは、今日も最高においしい1日を!
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