フードライター浅野陽子の美食手帖

食の取材歴20年のフードライター(子育て中)がレシピ、レストラン、仕事話などを紹介するブログです。著書『フードライターになろう!』全国書店で発売中。

取材歴19年のフードライターとして言いたい、テレビや食レポ記事でよく見る「違和感のある定番フレーズ」やめて〜!

先日、Facebookの生放送番組に出演した際、食の取材話のほか、「文章の書き方」について私が思っていることを話したら、MCの女性や現場の撮影スタッフの方々に非常にウケてびっくりしました。動画を見てくださった視聴者の方にも「なるほど〜!」とたくさんコメントをいただき…。

もちろん文章を書くことが好きだから、新卒で出版社に入って以来、いまの仕事までつながっているのだけれど…私は小説家ではないので、書くことそのものについてはごく当たり前というか、むしろ平凡で地味なことしかやってないと思っていて。大きな反応が意外でした。

その延長で、今日は文章の話をします。私がとても苦手な「定番フレーズ」について。どれも雑誌や、テレビのグルメ特集でよく見かける定番ですが…どうも違和感があります。みなさんも読んでいて、私と同じ変な感じ、しませんか?

言わずと知れた(例:言わずと知れた浅草のあの名店! など)

よく出てきますよねー。「言わなくてもみんな知っている」の意味なのに、こう書いてあるときって、たいてい初めて聞いた情報。どうしても気持ち悪いのです…。

〜と、思いきや(例:「ここらでメイン登場と思いきや、まさかの炭水化物メガ盛り!」など)

「思いきや」も本当に多い。バラエティ番組のテロップや、ファッション誌にもよく出てくるし、女性タレントのブログでも定番。使いやすいけど、多用されすぎて…次の展開を盛り上げる言葉のはずなのに、どうも盛り下がってしまうのは私だけ?

残念ながら(例:「残念ながら日曜のみランチは休業」など)

はるか昔の会社員時代、上司に「あのプロジェクト、どうなった?」とせっつかれ、「それが先方からNGが出て、◯◯と××の理由でダメだそうで、さらに…」と続けようとしたら「おまえさ、人はYESのときは理由を聞きたいけど、ダメな場合は全然聞きたくないんだよ、もういいよ!」とさえぎられ、「社会人はネガティブな説明は言っちゃいけないんだ!」と、20代の若造なりに、大人の基本ルールをさとったわけです。

この「残念ながら〜」のフレーズを読むたびに、このときの上司の気持ちが自分に乗り移ります。「日曜のみランチ休業」だけで、いいじゃん!なんで先に「残念ながら〜」をつけて、ネガティブな気持ちにさせるのか?とさえぎりたくなりますね。

特筆すべきは/惜しむらくは(例:「特筆すべきは、料理のクォリティに負けない同店の接客レベルの高さ」など)

食の記事だけでなく、ビジネス誌でもこのフレーズ、よく見かけますね〜。

個人的に、この2つを使うのは文章のプロフェッショナルとして職務怠慢だと思っています。「特筆すべきは」は良い点、「惜しむらくは」はダメな点を挙げるときに使うんですが、良い点もダメ点も、「ここの良いところは〜」なんて説明から入らずに、前後の文脈から誰にでもそれが伝わるように、プロならしっかり書き切るべき!私はぜーったいに使いません。

◯◯は××の(どっちにも地名が入る/例:イタリアトスカーナの伝統製法 など)

この「地名+は」が入ると、一気に文章が古めかしくなる気がするのは私だけ?「イタリア・トスカーナ伝統製法で造られたワイン」など、ナカグロ(「・」)でシンプルにつないで、すっきりさせればいいのに…これが出てくると、記事の内容がよくても、なぜ昭和調にわざと転調しちゃうんだ!と思ってしまいます。「葛飾は、柴又の〜」と“寅さん調”になっちゃうんですよね。

おまけ:究極の行数のムダ遣い→「そうたずねると、シェフはふっと微笑んだ」

書いている方、ホントごめんなさい<( )><( )> でも言いたい!レストランの紹介記事で結構これ、見ます!

この1行で19文字。雑誌の長文コラムはだいたい1行17〜18字なので、このあんまり意味のない一文で、貴重な原稿を1行分もムダにしちゃうんですよ!

ふっと笑ったり、微笑んだりすることが必要で入れてるならいいんですが…次に続く内容は必ずまったく関係ない(_)

私はインタビュー取材は必ずICレコーダーで録音し、音声をテキストに起こしてから原稿を書きます。「テープ起こしは必要ない」というライターさんや編集者もいるけれど、真剣に面白い、濃度の高い原稿を書くなら必須だと思って続けています。人は30秒でも100字くらいしゃべっていて、テキストは毎回、膨大な量になります。でも何気ない会話の中に、読者が興味を持ちそうな面白いキーワードがたくさん散らばっていて、取材の文字起こしメモは、貴重な情報の宝庫なのです。

この文字起こしメモを、原稿を書く前にざっくり見て(でも音声起こしをしている段階で、かなり頭に入っている)、指定の文字数に対して、どの面白いネタを、どの順番で出して書いていったら初めて読む人にも面白いのか、考え抜いてから構成を作るのが私のパターンです。

たいてい書きたい量に対して、誌面上収めるべき文字数が全然足りないので、断腸の思いで切り捨てているネタの方が多いのです。なので、「ふっと微笑んだ」となど無意味な情報を入れて、行数捨ててることが信じられない!といつも思ってしまうんですよねー・・・。

*これらの「定番フレーズ」、絶対に使うまい!と思って生活まわりの文章を書いてみて!

全部、世間に大量に出回っている言葉ばかりなので、つい書きたくなるかもしれません。でもこれからブログを書いたり、文章を本腰入れて鍛錬してみたいという人は、これらのフレーズは絶対に避けると決めて、ぜひ思うことを書いてみてください!その方が絶対、オリジナリティのある、すっきりした面白い文章になります!